2016年6月16日木曜日

【一橋ビジネスレビュー】 2016年度 Vol.64-No.1

2016年度<VOL.64 NO.1> 特集:人事再生

















12・3・6・9月(年4回)刊編集
一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社


特集:
人材マネジメントは本来、経営に資することが求められる。しかし現在、経営環境と企業戦略が大きく変化するなか、人材マネジメントが経営から乖離し、多くの不都合が起こっている。また、働く側も多様になりつつあるニーズを満たされないでいる。今、必要なのは、過去の成功モデルを捨て、新たな成長戦略を担う人事戦略とそれを実行するシステムを構築することである。本特集は、若手研究者を中心に現在提案されている斬新なアイディアを紹介し、実務家が人事管理の次世代モデルを考えるヒントを提供することをめざす。

特集論文Ⅰ 採用機能の革新と連続性に関する実証研究
服部泰宏(横浜国立大学大学院国際社会科学府・研究院准教授)
日本企業の採用活動はどのようなものへと変化しているのだろうか。採用活動の革新を起こした企業はどの程度存在しており、そうした企業ではどのような革新が行われたのか。革新はなぜ起こったのか。2016年卒採用に注目して、こうした点を実証研究により明らかにすることが、本論文の目的である。日本企業の人事担当者へのサーベイ調査により、日本企業のなかに、採用の革新に挑戦する企業が現れたこと、そうした企業には、上司からの影響が最小化されている、人材像や人材要件の設定を担当者自身が行うことが許容されている、担当者が社内の学びの場に積極的に参加している、多様な人材を採用したいと考えている、といった共通点があることがわかった。


特集論文Ⅱ 新事業を創造する技術者は育成できるか
鳥取部真己 (北九州市立大学大学院マネジメント研究科准教授)
本稿では、日本の製造業で新事業創造を担うことが多い技術者の能力に焦点をあわせ、新事業を創造する技術者が兼ね備える5つの能力と20代での仕事経験との関係を分析した。その結果、専門分野内のジョブローテーションは専門能力形成を、成功した経験は新規提案力形成を、開発プロセス全体を一気通貫する経験は全体感形成を、上司に触発された経験は開発マネジメント力形成を促進するなど、5能力ごとに異なる20代での仕事経験が、新事業の創造に必要な5能力の形成を促進または阻害することが示された。この分析結果を踏まえると、技術者の仕事経験のデザイン、つまりキャリアデザインをより慎重に行うことで、新事業を創造する技術者を育成できることが示唆される。

特集論文Ⅲ 日本の人事はタレントマネジメントに移行できるか
石原直子(リクルートワークス研究所『 Works』編集長)
経営環境と経営戦略が大きく変化するなかで、経営や事業を率いるリーダーを中核とする人材を、これまでのやり方とは異なった方法で確保しなくてはならないという議論が聞かれるようになってきた。そのなかで注目を集めているのが、「タレントマネジメント」である。タレントマネジメントとは、企業目標達成のためにタレント(人材・人財)を特定し、採用、配置、評価、処遇、育成などの一連の人事プロセスを通じて、必要な人材を引きつけ、やる気を引き出し、その人材の持つ潜在力を最大限に活かす、総合的な仕組みや仕掛けである。本稿では、筆者の豊富な調査の結果をもとに、わが国の企業がタレントマネジメントを導入していくための課題と可能性を考察する。


特集論文Ⅳ 「開かれた職場」は主体的行動をもたらす
鈴木竜太/砂口文兵
(神戸大学大学院経営学研究科教授/神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程)
成果主義や業績主義といった個人評価への傾斜や情報技術の普及を背景に、職場で働く個人の孤立が進んでいる。そこでは、職場は個人が働く物理的な場と化し、人同士のコミュニケーションの場としての職場が持つ機能は影を潜めてしまっている。本稿は、この職場機能の低下という問題意識の下、働く人のコミュニケーションが盛んである「開かれた職場」がそこで働く個人にもたらす影響を検討する。開かれた職場では、固定的な価値観に縛られることなく、職場に職場内の情報も職場外の情報も常に流れている。そのような職場は、そこで働く個人にいかなる影響をもたらすのか。また、そうした職場にするために、人事やマネジャーには何ができるのか。本稿は、大手電機メーカーの研究開発部門への調査に基づくデータから、この開かれた職場がもたらす行動として、創意工夫行動、自己学習行動、そして職場外への協力を求める行動を分析した研究である。

特集論文Ⅴ ミドルマネジャーの戦略的役割――階層性と時間差効果
西村孝史/西岡由美
(首都大学東京大学院社会科学研究科准教授/立正大学経営学部准教授)
本稿の目的は、人材マネジメント(以下、HRM)の立場から、ミドルマネジャー(以下、ミドル)の役割を明らかにした上で、ミドルの役割が組織パフォーマンスに与える影響を検討することである。なお、本稿におけるミドルとは、「現場メンバーを管理している課長クラスの組織長」(35~45歳程度の管理職層)を指す。分析の結果、ミドルの役割のうち、短期的には差別化戦略と部下育成が同時に行われることで財務パフォーマンスを高め、中長期的には情報伝達の役割が財務パフォーマンスへの直接的な影響を有することが明らかになった。また、部下育成の役割が、大卒新卒3年以内の離職率低下に寄与することが明らかになった。以上のことから、本稿の理論的なインプリケーションは、①ミドルの役割を4つに類型化した上で、これらと客観的指標との関係を検討した点、②ミドルの役割を階層的に捉え直し、その効果は時間差で生じることを明らかにした点である。

特集論文Ⅵ 「すりかえ合意」行動と高年齢者・障害者の労働力均衡
高木朋代(敬愛大学経済学部教授)
高年齢者・障害者の雇用促進は、あらゆる国々で重要課題となっている。しかし現実は厳しく、雇用機会は限られている。就業希望者全員が雇用されるわけではないなかで、自分の真意をすりかえて、引退や転職といった二次選択を受け入れる「すりかえ合意」は、日本の高年齢者のみならず、イギリスの高年齢者・障害者にも共通して観察される就業行動であった。国籍や個人レベルの違いを超えた、この控えめで競争回避的な人間行動は、原初的な野心や利己心ではなく、職場・学校・家庭での経験を通じて各人のなかで醸成された公正理念やバランス感覚によって駆動されており、結果として、高年齢者・障害者の労働力均衡と適材適所への再配置を導く可能性を持つ。


[技術経営のリーダーたち]
[第27回]人生や仕事の結果は、「考え方」「熱意」「能力」という3つの要素の掛け算である
渡辺文夫 (株式会社KDDI研究所 代表取締役会長)
  インタビュアー:延岡健太郎・青島矢一


[経営を読み解くキーワード]
拡張自己
松井 剛 (一橋大学大学院商学研究科教授)

[ビジネス・ケース]
リンクトイン――シリコンバレー発、世界最大のプロフェッショナルネッワークの軌跡
磯田友里子/田路則子
(早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程/法政大学経営学部教授)
リンクトイン(LinkedIn)は、2016年4月現在、世界に4億人以上のユーザーを持つ世界最大のプロフェッショナルネットワークである。登録メンバーは、自分の職歴やスキルなどのプロフィールをオンライン上に公開することで、他のプロフェッショナルたちと交流し、ネットワークの拡大、知識の共有、ビジネスチャンスの拡大ができる。企業や団体に対しては、求職者と企業を結びつけるタレントソリューションズ、広告によるマーケティングソリューションズや、有料購読サービスを提供している。フリーミアムのビジネスモデルで、主な収益源はこうした企業に対する売り上げと、プレミアムメンバーの有料サービス利用によるものである。2003年に創業し、2011年にニューヨーク株式市場へ上場を果たした。

ドトール/スターバックス――セルフサービス方式コーヒーショップ業界での競争
網倉久永 (上智大学経済学部教授)
近年、外出先で飲むコーヒーの選択肢が広がり、競争が激化している。セルフサービス方式のコーヒーチェーンが、郊外ショッピングセンターやガソリンスタンドなどに積極的に出店しているだけでなく、コンビニエンスストアでもドリップしたてのコーヒーが手軽に購入できるようになった。「サードウェーブ」と呼ばれる新しいスタイルの店舗が話題になったり、モーニングサービスなどフードメニューに注力した新しいチェーン店も増えている。本ケースでは、セルフサービス方式コーヒーショップの代表的な2社を取り上げる。約35年前に創業したドトールコーヒーは、セルフサービス方式コーヒーショップをわが国に定着させた業界のパイオニアである。1990年代末に日本に進出してきたスターバックスコーヒーは、「サードプレイス」をストアコンセプトに掲げ、人気を博している。コーヒーをめぐる競争が新しいステージに移りつつあるなか、両社にとってどのような戦略方針が望ましいのだろうか。それぞれの創業から今日に至る事業展開を振り返りながら、近年の経営上の課題を検討する。



[コラム]価値創りの新しいカタチ──オープン・イノベーションを考える
[第5回]垂直分化・専門化のなかでの価値創り
清水 洋 (一橋大学イノベーション研究センター准教授)

[マネジメント・フォーラム]
インタビュアー/米倉誠一郎・守島基博
人事の差別化こそが、リーダーを育て、世界で勝つ組織を作り出す
八木洋介 (株式会社LIXILグループ 執行役副社長)


[私のこの一冊]
■本当の力を「聴く」ために:河合隼雄・鷲田清一『臨床とことば』
 宇田 理 (日本大学商学部准教授)

■「科学者たちの知的格闘を描いた傑作:M・ミッチェル・ワールドロップ『複雑系』
 稲水伸行 (筑波大学ビジネスサイエンス系准教授)


[投稿論文]創発的ビジネスモデルのイノベーション――巣鴨信用金庫の事例
伊藤嘉浩(東京理科大学経営学部客員研究員)
本稿では、重要性が増している企業におけるビジネスモデルのイノベーションについて、当初意図
していない事後的に現場から生まれる創発的ビジネスモデルを新しい概念として用い、そのプロセスを金融機関の顧客満足で顕著な巣鴨信用金庫の事例を調査・分析して明らかにした。分析の結果、プロセスは、同金庫のホスピタリティの原型「おもてなし処」の創発と、ホスピタリティの全社展開と完成という大きく2つのプロセスからなり、それぞれが創発の段階を含む合計7段階となっていた。この特徴は、①事前のビジネスモデルの分析的計画がまったくなく、創発的ビジネスモデルが生まれ、②この原型を発展・一般化させて全社のビジネスモデルが完成したことであった。考察では、この創発的ビジネスモデルの発見と、そのための研究活動、場とチャンピオニング(擁護活動)の重要性を指摘した。そして、この原型の全社戦略実行への貢献と、既存組織との相反を解決する組織化された創発の仕組みを優れたマネジメントであるとした。

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